無意識というものは恐ろしい。


 なぜ有里が頼を知っていたのかを考えていたら、自然とあの高台に来ていた。帰ろうとした瞬間、頼に見つかってしまった。


「紫乃! 今日は来てくれたんだね!」


 頼は紫乃の両手を取り、いつも紫乃が座っている場所にエスコートした。紫乃はされるがまま、ベンチに座る。


「ここからの景色、ものすごく綺麗だよねー。昔から変わらない」


 隣に座った頼の横顔を眺める。紫乃の視線に気付いた頼が紫乃のほうを見ると、咄嗟に目を逸らした。


「あの……お母さんが、矢崎さんのことを知っていたのですが……」


 一人で考え込むよりも早いと思って質問したが、具体的な内容が出てこなくて、言葉を濁した。


 頼は気まずそうに紫乃から顔を背け、右手の人差し指で頬を掻いた。


「今は言えないんだ。そのときが来たら話すから、待っていてもらえないかな……?」


 そう言われて、紫乃はそれ以上踏み込むことができなかった。


「僕からも一つ、聞いてもいい?」


 首を傾げて頼の質問を待つ。


「紫乃はどうしてここに来るようになったの?」


 ゆっくりと視線を移動させていく。頼の顔から、ベンチに置かれた手、適当に投げ出された足先。そして遠くを見つめる。