「記憶を消せばいい。辛いかもしれないが、今あの子を苦しめているのは、頼に嘘をつかれたという事実だ。人間同士なら真実を言って仲直りが出来るかもしれないが、お前たちは違う。あやかしだなどと言えないだろ」


 静かに涙が落ちた。


 自分たちで築いてきた幸せな時間を、自分で消す。これほど辛いことはなかった。


 だけど、紫乃の幸せを思うと、星南の言う通りにするしかなかった。


 そのまま紫乃の家に向かい、ベッドで眠る紫乃の傍に立った。


「ごめんね……」


 紫乃の頬に口付けをし、自分に関する記憶を消去した。


「……を食べなかったのか?」


 すると、一階から男の声が聞こえてきた。気になった頼は、下に降りた。


「泣いて帰ってきたまま、部屋にこもっちゃって」
「いじめ……か?」
「ううん。紫乃、好きな子が出来たみたいで。フラれたんじゃないかしら」


『好きな人』という言葉が、頼に重くのしかかった。


「……どうしてわかる?」


 父親の声色が変わった。


「勉強しながら眠っていたときがあって、そのときノートを見ちゃって。あの子、ノートの端っこに好きな人の名前を書いていたのよ」


 耳を塞ぎたい衝動に駆られたが、我慢して続きを聞いた。


「矢崎頼って」