あの子は出会ったときから優しかった。


 頼はいつものように、真樹が住み着いている木の根元で眠っていた。


「あの! 大丈夫ですか!?」


 慌てたような声で、目が覚める。目を開けると、心配そうに顔を覗き込んでくる少女がいた。


「……大丈夫。寝てただけ」
「よかったあ」


 心の底から安心したのがわかる。


 表情がころころと変わる、面白い子だと思った。そしてなにより、可愛かった。


「私、楠紫乃です! あなたは?」


 頼は困った。名前は存在しても、苗字というものがなかったからだ。


「頼。……矢崎、頼」


 それは昔聞いた苗字で、適当に名乗った。


「矢崎さんですね! 矢崎さんはどうしてここで眠っていたんですか?」


 頼が困っていることに気付いていないのか、紫乃は頼の隣に座って質問を続けた。


「……日向ぼっこしてたら、眠くなって」
「冬なのに?」


 寒さはあまり感じない、とは言えなかった。


「紫乃ー」


 すると、公園の外から紫乃を呼ぶ声がした。頼は胸を撫で下ろす。


「矢崎さん、また明日もここにいますか?」
「あー……多分」
「じゃあ、また明日!」


 満面の笑みを見せた紫乃は、そのまま帰っていった。