その言葉を本当に大切にしているのか、紫乃は幸せそうに笑っている。


「その人がまだ私のことを好きでいてくれてるか、わかりませんけどね」


 今までの笑顔が嘘のように、苦しそうに笑う紫乃を、思わず抱きしめてしまった。


「あ、ごめん……」


 自分がしてしまったことに気付き、すぐに離れた。


 紫乃は、その温もりを知っているような気がした。


 それはとても大切で、ずっとあった心の穴を埋めてくれるようなもの。


「紫乃……?」


 紫乃の動きが固まり、頼は恐る恐る名前を呼んだ。それでも、紫乃は反応しない。


 嫌な予感がした。


 昨日、真樹に言われた言葉が頭をよぎる。


『心に残っている』


 些細なきっかけで思い出す可能性があったとすれば、今の自分の行動は失敗だ。


「……あの……違ったらごめんなさい……私たち……二年前に、会ってませんか……?」


 言葉に詰まった。


 紫乃が思い出してしまったことでの動揺。そして、真実を言ってしまいたいという欲求。紫乃を傷つけるようなことはできないという理性。


 それらが瞬間的に頼を襲った。


「……どうして?」


 それを言うだけで精一杯だった。


「もし昔会っていたのが矢崎さんだったら……あのとき言えなかった私の想いが伝えられるかなって思って」