研修期間は上司に教わったことをこなすだけだが、いざ実務に投入されると、必ずしもマニュアル通りには進まない。予想外のハプニング、急用、電話応対、同時進行に追われて能率が上がらないなど、時花は数々の失態をさらした。

 前評判の才色兼備はどこへやら、あっという間にお荷物の烙印を押されていた。

(極め付けが、決算書の記入漏れと計算ミスとか……エクセルの列がズレてマクロがとんでもないことになったり……)

 今さら反省しても栓なきことではある。これから新たな就職面接へ向かうときに、ネガティブな過去を思い返している時点で救いようがない。

(失意のままスピード退職して数ヶ月……外に出る勇気が湧かず、人が怖くて友達すら絶交し、孤独なニート生活を送ったのでした。とほほ……)

 新社会人は、研修明けの三ヶ月後が最も退職率の高い時期だと言われている。社風が合わない者、仕事に付いて行けない者、人間関係に失敗した者……時花もその一人だ。

 それから数ヶ月――。

 街路にはすっかり枯れ木が立ち並び、冷涼な北風が吹き抜ける十一月末日を迎えた。

(十一月末ともなると、さすがに肌寒いですね……コートを着て来れば良かったです)

 上着がないことに今さら気付く。

 これも彼女の鈍さを体現していた。