4.



 その日は結局、学生は店に訪れなかった。店長も真相を教えてくれない。

 ただ一言「明日こそ学生は来店するでしょう。スピードマスターが売れ残っているかを確認するためにね」と片目をつぶってほくそ笑んだきりである。

 時花は店長が何に思い至ったのか判然としないまま、今日の業務を終了した。

(謎解きの楽しみはお預けですね……)

 再訪する学生の前で、店長が全てを明るみにするのだろう。その上で、学生が腕時計を欲しがる事情に(かんが)み、品物をどう取り扱うのかを決めるに違いない。

 時花は何も出来ぬまま帰宅し、夕食を()り、風呂に入って、眠りに付く。

 その間、ずっと学生のことばかり思い返していた。そのせいで注意が散漫になり、帰りの電車は乗り過ごすし帰り道は間違えるし玄関や風呂場でずっこけるし着替えは後ろ前反対だしと、持ち前のドジっぷりをいかんなく発揮した。

(学生が代金を払えない以上、売ることは出来ません……店長のお手並み拝見となりそうです。それがお店の方針であるならば、私も従わないといけませんから……)

 あれこれ考えるうち、悶々として眠れなくなる。

 まんじりともせずベッドから這い出た時花は、寝巻きの後ろ前を直しつつ部屋を出た。