3.
「ふむふむ。そのお客様の特徴を、もう少し詳しく聞かせて下さい」
店長は時花の報告を受けると、興味深く耳を傾けた。
特定の品物に執着を持つ客が多いことは、以前も話した。なぜなら高額物件はそのまま財産になり得るからだ。相応のこだわりがあるからこそ固執するのである。
(一つの商品に目を付ける人って、一定の法則性があるみたいですね……)
時花は何となくパターンを発見できた気がした。窃盗未遂がそうだったように。
「このオメガの腕時計を、食い入るように眺めてました!」
時花は該当する展示品をてのひらで示した。
先ほどのスピードマスター、一九六九年モデルである。ゴールドで彩られた丸い文字盤が美しい。リューズは右側に三つあり、革製のバンドが高貴な輪を描いている。
店長は嬉笑とともに何度も首肯してみせた。
「これを欲しがるとは、そのお客様はお目が高いですよ。オメガだけにお目が高い」
「…………店長もダジャレとかおっしゃるんですね……ちょっと意外です」
「これは失敬」苦笑する店長。「そのお客様は、年輩の方でしたか?」
「いいえ、若い人でした。ローンすら組めない学生だと名乗っていました」