「湯村、帰るぞ」


俺が悔しい思いを殺していた間に自殺と結論づけられたらしい。


しまったと思いながら、帰ろうとする先輩を引き止める。


「ちょっと待ってください、先輩!どうして自殺なんですか!まだ捜査が……」
「遺書が見つかった。だから、自殺。わかったか?」


先輩は発見された直筆の遺書を見せてくる。


「これが偽装の可能性だってあります!」
「しつこいな。他殺の証拠がない。見るからに自殺。そして本人が書いたと思われる遺書。これだけ揃っていて、まだ捜査する気か」


ため息混じりに言われた言葉は、俺に重くのしかかる。
きっと、次はこう言うだろう。


警察だって暇じゃない。
一つの事件を丁寧に扱うことは出来ない。


「警察も暇じゃないんだ。納得いかなくても証拠があればそれで終了。そうしなければ、全て解決なんて出来ない」


もう何度も聞いてきた。
俺が納得できないと言う度に、言われてきたのだ。


それで学ばない俺が悪いと言われれば、返す言葉もない。
だが、不確かな証拠だけでそれを真実だと認めてしまうことは、できない。


「帰るぞ」


ここに留まる理由がなくなってしまい、後ろ髪を引かれる思いで、現場を離れた。