「私だって臆病者よ」


人の心を散々えぐっておきながら、なにを。


「この年になると新しいことに挑戦したり、変わることは怖い。だけど、若者の思いは無駄にできないでしょ?」


保科は苦しそうに笑う。


「人が死ななきゃ世の中が変わらないと思ったその少女も、少女の死に責任を感じた相方君も、死にたくて死んだんじゃない。でも、死人は生き返らない。私たちにできるのは、第二の彼女たちを生み出さないことだけね」


保科のそれを聞いて、俺は煙草を捨てる。


「保科に励まされるとはな」
「あら、惚れた?」


保科の冗談に、俺は笑みがこぼれる。


俺たちにできることなんて、ほんの小さなことだ。
国を変える力なんてない。


だが、どれだけ些細なことでも、きっと救われる人がいるだろうから。
少女が絶望した世の中を変えられるようにしていこう。


こんなおじさんに何ができるんだと思ってしまえば、同じことを繰り返す。


だから。


「なんだか若返ったみたい。昔のあなたを思い出すわ。かっこいいわよ」


保科も煙草を捨て、喫煙室を出ようとする。


「やめてくれ」


そして俺たちは喫煙室を後にした。