重力に従って、彼女の涙がこぼれる。


「私はこの国に期待した。自殺する人が増えて、何かが変わると思った。だけど、何も変わらない。変わろうとしない。私は……みんなの命を奪うまでして、何を見ようとしたんだろう。どうしてこの国に期待したんだろう」


そんなことはないと、否定できない自分がいた。
できるはずがなかった。


実際、遺書だって無視された。


高校生の彼女がそう思ってしまうほど、この国は落ちてしまったのだろうか。


……彼女と話して、どうして自分が今こうして生きているのか、わからなくなってきた。


すると、彼女は目の前の川に向かって足を踏み出した。


「……おい!」


俺の止める言葉も、伸ばした手も彼女に届かない。
彼女はそのまま川に入ってしまった。


急いで彼女を追い、引き留める。


「……どうして邪魔するの。お兄さんは私を殺人犯だと思ってるんでしょ!?」
「でも、誰も殺してない」


彼女は驚いた顔で俺を見る。


そうだ。
彼女は誰も殺していないんだ。


「俺は君が罪を犯したようには思わないよ」


彼女を安心させるために、優しく微笑む。
彼女は堪えたけれど、大粒の涙をこぼした。


両手で涙を拭う。
その手には拳銃が握られていた。