桜木さんはさらに説明を続けた。

「あと、駅からの距離もマンションの資産価値には大きく影響する。境界は徒歩5分だね。都心地区で人気の駅から徒歩5分以内マンションは大きな値崩れはしないと言い切れる。むしろ、値上がりすることも少なくない」
「でも、値崩れしなくてもうちの会社はすぐに売っちゃうから意味ないですよね?」 

 私は首をかしげた。例えば5000万円でマンションを買い、何年か住んでまた5000万円で売れるのなら儲けものだけど、イマディール不動産はリノベーションを施してすぐに転売しているのだ。あまりその恩恵はないように感じた。

「うーん。そうなんだけど、それは逆に言えばそれだけ市場で需要があるって事なんだ。手を出した時に、失敗するリスクが低い。資産価値がしっかりしたマンションをリノベーションして適正価格で売り出せば、売れ残って負債になる可能性は限りなく低い。うちみたいに大きくない会社では、とても大事な事だ」

 真面目な顔で説明する桜木さんを見上げ、私は頷いた。イマディール不動産は決して大きな不動産会社ではない。マンションは取引価格も高いので、1件の売れ残りが会社の業績に与える影響も大きいことは容易に想像できた。

「今日見に行くところ3件あるよ。築22年が2件と築21年が1件。この築年数は大事なんだ。マンションっていうのは入居した瞬間に中古になる。中古は一般的に新築より安価で、築年数が経てば経つほど値が下がる。一方、大体築20年を超えると値下がりが止まり、価値は横ばいになる。それに、多くのマンションでは築20年を迎える前に大規模修繕を実施する。築20年を超えたマンションは管理体制で雲泥の差が出るから、ひと目見ればだいたいどんな管理体制か想像がつく。管理体制がしっかりしたマンションを選ぶことも大事なんだ」

 築20年──確かに、私の入居したマンションも築24年だった。けれど、とても築20年以上経っているとは思えない位、手入れは行き届いている。きっと、そういうところを気にしながらあの物件を選んだのだろう。
 
「ただ、あまり築年数が経っているとデメリットもある。例えば住宅ローン控除は築25年以下って縛りがあるし、築40年以上経つとせっかくリノベーションしても、すぐに建替えの話がでたりする。築20年過ぎが1番狙い目。まあ、億ションともなると住宅ローン控除がそもそも使えない富裕層の人達が購買層になるから、また変わってくるんだけどね。あとは、最近多いのは外国人の投資家。この人達も住宅ローン控除は関係ないことが多い」

 桜木さんの説明を聞きながら、私はなるほどと頷いた。いつか私も、1人で購入物件の選定を手掛けることになるかもしれないから、こういう知識はしっかりと覚えておく必要がある。

「あ、築年数にはもう1つ大事な節目がある」
「もう1つ大事な節目?」
「うん。1981年に建築基準法が変わって、耐震設計の基準が変わったんだ。それ以前の設計のものは旧耐震、それ以降の設計のものは新耐震と呼ばれている。日本は地震が多いからね。耐震基準を満たしているか調べるのも手間だし、物件を選ぶときは1981年以降に建ったものがいいよ」
「はい。わかりました」

 私は信号で立ち止まったタイミングで鞄から手帳を取り出し、今聞いたことをしっかりとメモに残した。