「ねえ、おばあさん。まずはお客さんに『いらっしゃいませ』って声をかけるものじゃないの?」

 子どもをたしなめる母親のような口調で、エリカは云った。

「ふん。私は分かってるんだよ。子どもなんて、冷やかしに来るだけ。そうだろう?」

 そう言って鼻を鳴らした老婆に、えも言えぬ苛立ちを覚えた。顔が熱くなるのを感じる。

(なんて意地悪な言い方なのかしら!)

 思わず叫んでやりたいところを、エリカはぐっと堪えた。

 こんなところで叫ぶなんて、まだまだ子ども! と、もう一人の自分がエリカの耳元でささやいている。

 もう十歳なんだから、お姉さんらしく振舞わないと!

「冷やかしに来たんじゃないわ」
「なら、ここにある何かを買うつもりがあるのかい?」
「それは……」