嫌なことイレーサー、と私は口の中で復唱した。幼稚でばかばしい呼称だが、的を得ている。

 結局、私が消すのは誰かにとっての「嫌なこと」でしかないのだ。

 誰かにとって都合がよくても、誰かにとっては都合が悪い。そんな情報を片っ端から消す。それが私の仕事なのだ。

 イレーサーとカタカナで表現することには新鮮味を覚えた。

「なんちゃって。冗談よ。真面目に聞かないで」

 ふふ、と笑い声を洩らし、ブランデーを口に含む。そんな動作も色っぽく感じられた。

 そんな彼女の口から、意表を突くセリフが出てきたのは、その直後のことだ。


「私、あなたのことが好きになっちゃった」