気付いた時には、カウンター席で二人並んで座って、お互いにくだらない話を始めていた。

 仕事がどうのこうの、生い立ちがどうのこうの、といった話だ。

 彼女の話の聞き方は、非の打ちどころがなかった。

 やりすぎない程度の相槌や、私が何を言っても「その通りね」と肯定しかしない唇、終始絶やさない微笑みは、私を不快にさせることがなかった。

 というよりも、私は彼女と話すことに楽しみを覚え始めていた。

 ときたま、彼女が手を重ねてきたり、私の肩に触れたりしてくるたびに、私の胸は高鳴った。



「記憶消去師、なんて名前、堅すぎると思わない?」



 不意に彼女はこう言った。酒に頬を赤らめていたから、酔った勢いで言ったのかもしれないが、そのあとにこう続けた。



「もっと親しみやすい名前にした方がいいんじゃないかしら。たとえば――〝嫌なことイレーサー〟とか」