依頼人の女こそ珍しかったものの、依頼内容自体は何ら珍しくない、凡庸すぎるくらいに凡庸な内容の依頼だった。

 悪い男に引っ掛かり、別れた後もストーカー化し粘着質に彼女を追い回しているのだという。
 そんな話はこれまでのキャリアの中で聞き飽きている。
 くだらないな、と思いながらも、仕事だから仕方あるまい、という気持ちで、私は女に指定された居酒屋へ足を向ける。
 都心の、若者たちでにぎわった洒落た居酒屋だ。バーあるいはパブと言った方が適切かもしれない。



「こんばんは」

 目の前に現れた彼女は、私が電話越しに想像していたよりも遥かに美人で、気丈そうな顔をしていた。そのことに少し私は驚きを覚えた。
 髪は黒くつややかに腰のあたりまで伸びていて、背もすらりと高く、全体的にほっそりした体型をしている。