【いずれ私の頭から消すつもりの一連の話】

 その女は、依頼人の一人だった。

 珍しい依頼人だった。

 政治家でもなければ富豪でも会社経営者でもない、ただのOLで、到底私の提示する大金など払えそうにない、「一般人」カテゴリーに収まっている女だった。

「どうしても、お願いしたいんです」

 電話口で、彼女は泣いていた。
 ヒステリックに声を上げ、声を上げては謝罪する。
 情緒不安定な女だと、私は舌打ちをした。
 電話先の彼女の顔などちっとも見えやしないのに、相手がどんな表情をしているかたやすく想像がついた。

「お金は、何年かかってでも、必ず払います。ですから、お願いします……」

 彼女の定期的に繰り返されるヒステリーに、私の中の同情心、憐愍の心が頭をもたげたのが、最大の誤りだったに違いない。

 私は、女の依頼を受諾することにしたのだ。