わたわたと両手をもたつかせながらも、ナユタはズボンのポケットから小さな小瓶を取り出し紡に渡す。

その小瓶は透明で小さく、ナユタの手にすっぽりと収まるサイズ。


「それですか。ご苦労様」


洒落た香水瓶のようなそれを人差し指と親指で摘まむと、紡は目を細め唇の端を持ち上げた。


「探させた甲斐がありました。ミツキの所にコレ程のものが無いとは、到底思えませんでしたからね」

「紡……どうするの? それ」

「いつかは役に立つものです。ならば、今の内に手に入れておこうと思いまして。無粋な者に横取りされても困りますし」

「あれ。すぐに使いたいモノじゃなかったんですかぁ?」

「美味しいネタは後で取って置くものですよ。ミツキだってこれをそう簡単に手放さなかったでしょう?」

「そういえば……。あるの忘れてたくせに、見つけた途端出し渋ってましたねぇ」

「光稀(ミツキ)が?」


驚きの色を滲ませ、セツナが小瓶を見つめた。

透明の瓶の中には薄い桃色の液体。

紡は、でしょうね、と怪しく微笑み言った。


「悲しみ深い記憶は、甘美な媚薬となり得るらしいと聞いた事がありますから」