「想いは通じますから」


やっと一言だけ言ってくれた結城さん。


「またお店に来てくれると良いですね」


私が仲良く親子連れで現れる事を期待すると、彼はフッと小さく笑った。


「……えぇ……叶うならば」


そういう口調が何となく重い。

結城さんも私と同じで、男の子の件では無力感を感じてるのかもしれない、と思う。

ずっと外であの子の母親を探し続けていたのは、他ならぬ彼だったのだから。


「…………」

「そういえば話は変わりますが、花音さんのアルバイト先はあの店から近かったですよね」

「あ。そうですね……。割と近いかも」

「今度、仕事っぷりを拝見に伺おうかな」

「え。……大丈夫ですから!?」


何が大丈夫なんだか。

ひきつった頬を向けると結城さんは楽しそうに笑ってる。

重い空気を彼が変えてくれたのは分かったので、私もやれやれ……と笑った。


「……って、結城さん!? 本当にそれだけで来ないでくださいよ!?」

「客として行く分には問題無い訳ですよね。行ったらたまたま花音さんの姿を見かけて……。うん。いいですよ?」

「“いいですよ”って何ですか……もう」


結城さんの事だから、教えなくてもバッチリシフトに合わせて来店するに違いない。


(どうか面倒な事にだけはなりませんように……)


好奇心の塊で元々結城さんに興味がある友人と、時々おかしな勘違いをする先輩。二人の顔を思い出しながら私は「明日からのバイトは違う意味で気が抜けない……」とこっそり思うしかなかった……。