この人はどこまで完璧を貫き通すんだろう?
頭のてっぺんから爪先まで、全く隙が無さそうで。ここまでパーフェクトな人間はそういない……。
改めて感じた結城さんの印象は、お金持ちで美麗紳士で完璧人間。万人の理想を全部カタチにしたような人だった。
まさかそんな人と、こんな普通のマンション生活で知り合う事になろうとは……世の中不思議なものだ。
いや、不思議なのはこの結城さんだけとも言えるかな。
「わ。こんな時間。私そろそろ……」
「お送りしますよ」
「送るって……隣りですよ? 十秒もしないで着いちゃう」
紳士的もここまでくると大袈裟だ。ほっといたら本当に送ってくれそうな勢いだったので、私は笑って結城さんを止めた。
「でも花音さん、今日はもうお疲れでしょう? バイトが忙しくて大変だったと、さっきも仰ってましたし」
眉尻を下げて心配顔になる結城さんに、私は思わず吹き出してしまった。
確かに疲れているけれど、それは目の前の家まで送ってもらう理由には全然ならない。車で移動しなきゃいけない距離でもあるまいし。結城さん、面白すぎる。これじゃ紳士的というより……過保護だわ。
「私は《疲れて歩けないー!》って駄々こねる子供じゃないんですから~。大袈裟ですよ」
「そうですか……?」
「そうですよ。じゃ、結城さん 。今日はご馳走様でした!」
席を立って挨拶。
玄関に向かう私へ「忘れ物です」と声がかかる。結城さんからホーローのポットと家の鍵を渡され、それを両手で受け取った。
そうだった。私、お砂糖ごとここに来たんだっけ。
二時間ほど前を思い出せば、強引だった展開に苦笑が漏れる。
引っ張られた腕、手際よく閉められた鍵。
あんな有無を言わさない状態にしなくても、私は誘いに乗ったかもしれないのに。
……どうしても来て貰いたかったって事?