私の手元からは紅茶の香り。


「それは……セツナとナユタが聞いたらきっと喜ぶでしょうね」


結城さんは目を細めて静かに笑うと、カップを傾ける。

その仕草がちょっと色っぽくて、私は小さな羞恥を誤魔化す様に視線と意識を紅茶へと落とした。

今は深夜だと忘れてしまいそうだった。昼間、あのお店で彼と過ごしている様な錯覚に陥る。

今日ずっと、こういう時間を送りたかった自分がいたのだと改めて認識したみたいで、とても恥ずかしかった。


「それで。聞きたかったというお話についてですが……」


結城さんの声にハッとなった。そうだ。私はそれが聞きたくて、彼の帰りを待ち、そしてここに来たのだ。

ウットリとお茶の楽しみに浸ってる場合ではなかった。


「はい! あの後……あの子」

「残念ですが、花音さんの期待していた結果にはならなかったんです」

「……え?」

「彼の探していた母親は、見つける事が出来なかったので」

「見つけ……え?」


アッサリと告げられた結果。

呆然と結城さんを見る。

私から目を逸らす事無く、結城さんは淡々と説明を続けた。


「ですから、親子は再会を果たしていません。……そうなると当然、彼をいつまでもあの店に足止めさせて置く……という訳にもいきませんでした。然るべき場へ彼を案内するしか他なかったんです」

「それは……警察、とか……?」


対応しきれなかった迷子の行き先なんて、決まってる。あえて聞く事でもない。

それでも出てしまった言葉に、結城さんは少し困った様子を見せた。


「そんな……。だって」

「出来る事はいつだって限られています。残念でしたが……」

「でも! じゃあ、零さんは……? あの人、あの子のお母さんの事を知ってるって……!」


あんな風に店を出ていったけど、零さんは最終的には連れてきてくれるかと思ってた。結城さんが母親を見つけ出すのが早いか、それとも零さんが連れてくる方が先か。どっちかだろうと思ってたのに……!