コツン、コツン、とゆっくりな靴音が聞こえた……気がした。
私にしては頑張った瞬時の素早さで、ドアに張り付く。
……やっぱり。そうだ。
近付いてくる音はドアの向こうを通過していった。そして、少し進んで止まる。
続いて聞こえた、キン、と甲高い音は、鍵についたキーホルダーの音かな?
私はここで飛び付く様にドアを押し開けた。
「花音さん!?」
目を丸くさせ結城さんが声を飛ばす。
「ど、どうしたんですかっ」
凄く驚いたらしい。勢い余ってつんのめり、更には転がりかけた私を見て、
「何かあったんですか!?」
開いたドアの奥、私の部屋の中を気にしていた。……幽霊でも見たかのような顔をしてたのかな? 私は。そんなはずは無いのだけど。
「や、あの……ちょっと聞きたいことがあったもので……。あ! お帰りなさいっ」
慌てたもんだから話の順番が変だ。自分で自分に首を傾げた私に、結城さんは微かに微笑みを浮かべた後、頷く。
「昼間、店にいらしたんですよね」
そして、自分の部屋のドアを開け私を招き入れた。
「どうぞ。時間も遅いのでここでは迷惑になります」
「でも……」
「聞きたい事があるのでしょう? それとも、私が花音さんのお部屋にお邪魔しましょうか?」
「いえっ……! お、お邪魔します。鍵かけてきますので待ってて!」
ぶんぶんと首を振って、私は結城さんの提案を否定し、彼のお誘いに素直に応じる事にする。
恥ずかしい事をやらかしたすぐ後だ。さすがに「どうぞどうぞ」と部屋にお迎えする勇気は無い……。
私は大慌てで部屋に戻り、玄関に置いてある鍵を取る。
再び廊下に飛び出すと、結城さんはクスクスと笑いながら私を待っていてくれた。