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この間まで真夏日が続いていたけど、最近は少しその日が減ってきて過ごし易い気温の日が増えてきた。

蒸し暑い日とちょっぴり涼しい日が交互に重なりながら、季節は移ろいでいく。

爽やかに騒いでいた緑の木々は、葉の色を落ち着かせ大人顔。街全体が次の季節、秋へと向かい始める。


「じゃあ、またね、……と」


メールの返信をして、携帯を床に置いた。

今日の昼間は、ここ最近で一番涼しく過ごし易かった。そのせいか、日付が変わろうとしているこの時間……心なしか肌寒い気も。

私は膝を抱えながら、寝室に何か羽織る物を取りに行こうか考えた。


(我慢出来ない感じじゃないから……。うん、大丈夫)


一人納得。私は膝を抱えたままホッと息をついた。

お世辞にも広いとは言えない玄関に、結構前からこうして座っている私。

時間の経過はあまり気にならない。朋絵とお喋りメールをしてたからだ。

でもちょっとお尻が痛いかな……。ラグとフローリングでは、やっぱりここにかかる負担が……ね。

床と同化しそうな程くっついていたお尻を左右交互にさすって、痛みを和らげた後、何回目かの確認作業。

勿論、確認の先はお尻じゃない。

耳を澄まして、ドアの向こう側へ。……見えない廊下を歩いて来るかもしれない気配を探す。

遠くから微かに救急車のサイレンが聞こえるだけで、目の前に目立つ音は無かった。


――結城さんはまだ帰宅しない。


家に帰ってからも、解決されなかった問題が気になって仕方ない。

あの後、男の子は無事に母親に会えたのかな?

帰り際の寂しそうな表情が、こうしてまだ胸をモヤモヤさせた。