「花音……大丈夫? どこも変な所はない?」


大人しくしていれば、セツナちゃんがそんな風に聞いてきた。

ん? と首を傾げてしまう。自分の姿を何とはなしに確認してしまうが、そもそも何故そんな聞かれ方をされるのか、そこからきちんと認識しなくてはならなかった。


「えっと……」


多分、自分の制止を振り切り握手をしてきた零さんの件を言いたいんだろうなぁ……。

それは分かった。でも、そこまでオオゴトにするような事でもないんじゃ……?

確かに、半ば強引な形での握手ではあった……。だけど、何も嫌がる所を無理矢理させられた訳でもないし、怪我や怪しげなアプローチに繋がった訳でもない。至って普通で、健全な自己紹介だった。


「別に何ともないけど……?」


答えながら、ちょっとだけ頬が熱くなる。彼が何か積極的アプローチをしてくる事を、後からとはいえ考えた自分が恥ずかしかったのだ。

それは具体的にどんなことかというと…………いや、やっぱり言えない。結城さんの顔がちらついてどうにも言えない。

どれだけ妄想甚だしいんだ、私ってば。

結城さんはイレギュラーケースで他ならない。あんな人がゴロゴロいてたまるもんか。

というか、万が一いたとしても私の周りにだけ、しかも私に対して、等……やっぱり図々しいにも程があり過ぎるだろう。

朋絵がミステリーの次にハマってる、イケメン男子数人から好意を寄せられる漫画や、複数の男子それぞれとの恋愛過程を楽しむ乙女ゲームじゃあるまいし。

……なんて言いながらも、ちょっとでも想像力豊かになっちゃうのは、やはり乙女の性なのか……。

とにかく、逞しくも浅ましい妄想力に自重と自嘲を。


「零の手が冷た過ぎたとか……変な感じを受けなかった?」


セツナちゃんが前のめりになって聞いてきた。


「え?……あ、うん」


真剣な眼差しが私を見上げてくる。


「あんまり感じなかった……よ?」


うわぁ……なんだ! そういう感じでの変な所ね。勝手に勘違いして恥ずかしいったら!


「本当に?」


呟くように言って、


「とりあえず、それなら良かった……。ごめんね花音」


セツナちゃんは思い詰めた表情でシュン……としてしまった。