「ハイハイ。退散しますよ、邪魔者は」


ひらりとセツナちゃんの冷視線をかわし、「じゃ、また」と短い台詞を私に。まだ怯えてる男の子にはニヤリと意味深な笑みを残すと、突然店に現れた男は突然去っていく。

出ていく時、彼はセツナちゃんや藤本さんへ視線を送る事も言葉をかけることもなく、あっという間に背を向けた。

まるで風が吹き抜けていったようだった。


「あ! 零さん!? この子のお母さん、呼んできてくれるんですよねっ?」


言った時には、店の入り口のドアは閉まっていて……。


「困ったことになりそうですね……」


沈黙していた藤本さんのため息交じりの声が、ドアを改めて押し閉めるように入口へ向けられた。


「そんなにあの人困った人なんですか?」


確かに付き合い辛そうな雰囲気はあったけど。


「彼は混乱を好むタイプですから」


テーブルに言葉を落とす藤本さんは、その先を言う事はなかった。


(混乱を好むって……)


となると、私はその一言で質問の答えを想像するしかない。とはいえ、どう考えても聞いた一言からはネガティブな答えにしか辿り着かず……。


(母親を連れてくるつもりは無いとか? そんな。まさかね)


男の子の頭を優しく撫でる藤本さんの姿を、黙って私は見ていた。

これ以上喋ると、男の子の不安が増してしまう様な気がしたのだ。