セツナちゃんが眉をしかめた。舌打ちでもしそうな位恐い顔。
零さんは全くそれには気づかないで、ニコニコ笑顔で私に一歩近付く。
やっぱりこの人も、笑い方ひとつで随分印象が変わる。さっきまで怪しさ全開だったのに、今は格好とピッタリ合った爽やかなモデルさん風だ。
「うん、イイね! オレに媚びない所……気に入ったよ」
零さんはそう言った。
まるで、世の女性はいつも自分に媚びてくるのだ、といった然で。言葉選びはあまり爽やかじゃない。
そしてそのまま、自信満々なモデル風男子は、一瞬呆気に取られた私に手を差し出した。
「俺は、九条(くじょう)。九条零。で、えっと……」
どうやら握手で自己紹介のつもりらしい。本当にさっきとは別人のようだ。変わり身の速さに私の手は一秒躊躇う。
だけど、彼のこの爽やかさを全面に押し出してきてのアピールでは、こちらとしても断る理は無かった。
いくら態度が違うとはいえ、今はこんなフレンドリーにしてる人を無下に扱うのも失礼だと思う。
「あ。私は……」
「零! やめて!」
「セツナちゃん?……っあ」
彼女の制止に気を取られた瞬間、零さんはパッと私の手を両手で握った。
見ると、眼鏡の奥でウインクする瞳。茶目っ気たっぷりのその目に、自然とこちらは苦笑してしまう。爽やかモデル風はたった今プレイボーイ風に変わった。
「奥村です。奥村花音」
「そう。カノンっていうのか……可愛い名っ前。ヨロシクな、これから」
「はい。……あの、九条さんも、このお店にはよく来るんですか?」
「零でかまわない。ああ……ま、時々。……っと!」
セツナちゃんの刺す勢いの眼光鋭さに、零さんは肩をすくめる。