「………」


男の子の目が逡巡する。クレヨンを持つ手が躊躇ってる。

少しの間の後、彼は藤本さんへ救いを求める様な視線を送った。


「駄目。行っては駄目」

「セツナ君……。結城氏とは連絡取れましたか?」

「……まだ。でも、すぐ取れる」


戸惑う男の子にハッキリと答えたのは、奥から戻ってきたセツナちゃんだった。藤本さんの質問にも随分と断定的に返事をする。彼女の結城さんとの連絡手段はかなり確実性があるものらしい。


「零(れい)。他のお客様の迷惑になるからすぐ帰って」

「ヒドイなぁ、セツナちゃん。俺も立派な“お客様”だって。いつもの美味しいコーヒー淹れてよ」


セツナちゃんの冷たい声に、零と呼ばれた男はひょいと肩を竦めおどけて見せた。

それを一瞥したセツナちゃんの目は、やっぱり冷たい。口調も変えず、セツナちゃんは私達から離れたテーブルを指さし言う。


「あっちの席でひとりで大人しく飲むなら淹れてあげてもいい」

「……えぇー?」


――徹底して冷たい対応。

この人……どんだけ迷惑なお客なんだろう? これまで困った事ばかりしてきたのかな?

セツナちゃんの対応も、藤本さんの態度も、これまでの男との過去を簡単に想像させる感じだった。