「私だって別に慣れている訳じゃないですよ。ただ少し此処にいる時間が多い分、彼女たちよりも君に免疫が有るだけです」
藤本さんには珍しく、刺のある言い方だと思った。視線も合わせずぶっきらぼうに。男もまた、それを気にする様子も見せずニヤリと笑う。
「へぇ……。免疫ねぇ。言ってくれたモンだ」
「長くこうして居ますとね、諦めも覚えるんですよ」
「諦め? じーさんが? ハッ……笑わせるなよ、アンタがそれを言うか」
くつくつと笑い続ける男は、目を閉じ何も言わなくなった藤本さんをチラリと盗み見、そしてまた口許を歪ませた。
嘲(わら)う眼。
細い三日月の様な男の瞳は、冷たいナイフみたいだった。
一瞬の鋭さに体が固まる。男の子も益々恐怖心を顔に張り付けた。
「まぁ、いいやソレは。ところでさ、そのサガシモノ……俺知ってるよ」
「えっ!?」
今までの私達の会話を聞いていたのか、男はテーブルの上の絵を見て言う。藤本さんも私も、その言葉にハッとなった。
「知ってるんですか? この子のお母さんのこと!」
「まあね」
「……。知ってるって、君……それは」
「会いたいか? なんなら俺が案内してやってもイイけど?」
男は、不安と期待を混ぜて自らを見上げる男の子にそう言った。