「お。いいねソレ。ついでに俺もコーヒー貰おっかな」

「きゃっ!?」


それは本当に突然現れた。

急な背後からの声。背中がゾクッと冷たくなった私は、思わず席を立ちあがってしまう。

若い男性の低い声は、結城さんと少し似ていたけど違う。結城さんの落ち着いたトーンに対して、その声はどこか軽薄さが感じられた。


「っと! ビックリした。オーバーリアクションだね、アンタ」

「な、なるでしょ普通! そんな急に後ろから声かけられたら……!」


相手を睨みあげて文句を言ったものの、私は途中で言葉が出なくなってしまった。

急に現れたのにも驚いたけど、目の前の人物があまりにも“想像以上”だったからだ。


「君の登場はいつも突然ですね。少しは節度を覚えた方がいいんじゃないかな? 花音君たちの様な子には刺激が強いでしょう」


文庫本を閉じ、藤本さんは静かに言った。口調は穏やかだけど、少し怒っている様にも見える。

私以上に驚いた顔の男の子は、突然現れた背の高い男を明らかに怖がっていた。この子の事を怯えさせたのが、藤本さんには許せなかったらしい。


「慣れるだろ、その内。じーさんみたいにな」


まるで人を小馬鹿にした様な笑みを口元にたたえ。男は乱暴に隣のテーブルに座った。

明るい色の髪。その色に近いべっ甲縁の眼鏡をかけた男は、長い脚をテーブルの上で組む。

パーカーにジャケット、細身のパンツスタイルの彼は、まるで男性ファッション誌から抜け出してきたみたいな人だった。

ひとつひとつのアイテムが洗練されたデザインなどで、着こなすのは難しそうに見える。それでも嫌味無くサラッとまとめてしまっているのは、理想的な体型と端正な顔立ちのせいだ。

……。言葉もない私。

どうしてこの店に集まる人は、こうも美形揃いなんだろ。

自分の場違いこの上ない感じが、ハンパないんですけど……!