そんなこんなで、私達が自分の絵に一喜一憂? してる間にも、男の子はまた別の絵を書いていた。

私が覗くと、男の子が顔をあげ笑う。人物は描き終わっていて、周りにカラフルな彩りで花をプラスしているところだった。


「上手だね。もしかして、お母さんなのかな?」


大きな頷き。

ショートカットの女性がニッコリ笑ってる絵は、それまでの中で一番丁寧に描かれてる気がする。

子供の愛情って、こんな風に愛らしく向けられるものなんだって思うと心がほっこりした。


「セツナ君。これ……結城氏に伝言したらいかがでしょう? この特徴は良いヒントになるかもしれませんよ?」

「あっ、そうか!」


藤本さんの案はもっともだ。

ショートカット、頬に二つのほくろ、黒いワンピース。

男の子が書いた母親の絵は、彼女を探している結城さんの助けに十分なるはず。


「伝えてくる」


セツナちゃんは藤本さんの言葉に頷くと、店の奥へと急いで消えていった。


「早く見つかるといいのに」


私は、人混みの中をさくさく歩いていた結城さんを思い出す。

いつでも自信有り気な、スッと伸びた背筋を。何でも知っている様な深い瞳を。


「大丈夫ですよ。彼なら、必ず」

「ですよね」


静かに微笑む藤本さんに、私も同意した。

今にも開きそうなお店のドアを見つめて。

結城さんが女性を連れて入ってくるのが想像出来る。完璧なまでに紳士的なエスコート姿。

そんな想像に何故か胸がキュッとなった。


「ん?」


……どうも今日の私は調子が変だ。


「どうしました? 花音君」

「あ、いえ。なんでも」


紅茶のおかわりでもいただこうかなー、なんて我ながらちょっと演技臭い言葉を発しながら、私は自分のキモチに首を傾げてみる。

自分でも分からない内に、感情が先走っていく感じが不思議でたまらなかった。