それからしばらく、私達は穏やかに楽しい時間を過ごした。
男の子はお絵描き。私はそれをのんびり眺めて。読書をする藤本さんは、時々手を止め顔をあげると、満足げに口許をゆるめていた。
男の子の描く絵が少しずつ増えていく。電車、車、ゾウやキリン。
私達の絵も描いてくれた。
「若く見られたのね、誠心(せいしん)」
セツナちゃんが皺一つない藤本さんの似顔絵を見、フッと笑う。
と、私はそこで初めて知った。誠心とは藤本さんの名前らしい。
「光栄ですね。セツナ君なんかお姫様みたいになっていますよ」
「ホント! かわいい~」
「……違う。私はお姫様じゃない……」
セツナちゃんのドレスは、フリルとレースが三割増しになって、ヘッドドレスはティアラに書き換えられてる。
男の子には、セツナちゃんの格好は絵本に出てくるお姫様に見えるんだ……。
そうだろうなあ、なんて改めてセツナちゃんの姿を見たりする私。私の視線に気付いたセツナちゃんは、ふいと目を逸らし絵を見つめる。
頬がほんのり赤かった。表情薄い彼女の微かな変化だ。
「か、花音は……」
「うん。よく書けてますね」
「……ですよね。忠実な再現だなー……」
三人で絵を見て、私に関しての感想はそこに落ち着いた。
セミロングの髪は、多少の癖が矯正されていて綺麗なストレートに変わっていたけれど、他は上手に再現されてる。平凡な容姿は、子供のお絵描きにも優しい設計になってるようで……。
苦笑する私に、藤本さんが「花音くんの事をよく見ているという事ですよ」と微妙なフォローをくれた。
「それ、フォローになってる? 誠心」
「何かおかしな事を言ってしまいましたか? 私は」
「ははは……大丈夫です……」