「そう。ですがこんなに小さな子ですし、親御さんもきっと近くにいらっしゃって心配しているに違いない。必死で探しているかもしれない」
「ですよね……。あっ」
転がる赤が視界に飛び込んでくる。
男の子がフォークで刺そうとした大きな苺が、刺し損ねてテーブルまで転がってしまった。
「おやおや。苺さんが逃げてしまったね」
藤本さんがそれを摘まむと、男の子が笑顔になった。人懐っこい笑顔。あーん、と口を開けたので、藤本さんは目尻を下げ「本当は行儀が悪い事なんですよ?」と言いつつ苺を口に入れてあげる。
男の子はもう藤本さんには懐いているらしい。うーん。こうして見てると、やっぱり祖父と孫だ。
「ですからね、今、結城氏が彼の親御さんを探しに行ってくれている所なんです」
「結城さんが?」
「はい。丁度花音君とは入れ違いになってしまいましたが」
「あ……そうなんですか……」
「きっとすぐ戻ってきてくれますよ。彼の親御さんと一緒に」
藤本さんと目が合うと、ニッコリと微笑みが返ってくる。
思わずドキリとした。私が結城さんの事を探しにココへ来たのを気付いているみたいなんだもの。
これぞ年の功ってやつ? 人生大先輩の藤本さんには下手な誤魔化しが効かなそうだ。
「はぁ」と曖昧な返事になってしまった私に笑うと、藤本さんは男の子にも笑った。
「ね? だから此処で、もう少し待っていましょう」
「………」
男の子は、こくん、と黙って小さく頷いた。