店に入った時から気付いていた甘い匂い。注文されたスイーツのものなんだろう。


「こんにちは。藤本さん」


昨日と変わらず、カウンター席で本を読む老紳士に声をかけた。パッと穏やかな顔が私に向く。


「やあ、花音君。こんにちは」


昨日も思ったけど、藤本さんの歳を感じさせない容貌は、品の良さも合わさって凄く素敵。絶対若い頃とかモテたはずだ。


「ご一緒してもいいですか?」

「勿論です。さあ、どうぞ」


目元に皺を沢山作って、藤本さんは笑顔で自分と小さな男の子の間の席を薦めてくれた。

男の子がキョトンとした顔で私を見る。食べかけのパンケーキのクリームを口の周りにつけたまま。

おじゃまします、と笑いかけたら、恥ずかしそうに俯き、また無言でパンケーキを食べ始めた。歳は幼稚園年中さんといったところかな? 人見知りも真っ最中なのかもしれない。


「えっと……。藤本さんのお孫さん?」

「いやいや。残念ながら、私には子供がいないのでね。この子は孫ではないんですよ」

「え? じゃあ……」


この子はだれ?

どこからどう見ても、お爺ちゃんと孫にしか見えない組み合わせ。一緒に座っているから、そう信じて疑わなかったのに……。

藤本さんは、うんうんと頷き微笑む。そして、もう冷めてしまっているコーヒーを一口口にすると、私に事情を話してくれた。


「この子は迷子でしてね。午前中からこの店で保護しているんです。見ての通り彼は少々口下手さんなので、親御さんの情報も彼自身の情報も分からなくて……」

「迷子!?」