昨日のナユタ君が着ていたメイドドレスよりフリルやレースをふんだんにあしらった、ゴージャスな黒のゴシックドレス。

柔らかそうな、チョコレート色のストレートロングの髪。

そして、双子の兄と全く同じなオッドアイの瞳。

初めてナユタ君のことを見た時お人形さんみたいだなと思ったけど、セツナちゃんはさらにその感想を強く抱かせるようなコだった。


(すごい………。アンティークドールみたい)


「今日はナユタ君いないの?」


明るい声が一向にしないので、私はセツナちゃんに聞いてみた。ぐるりと店内を見渡しても、彼の姿はない。

奥のテーブルに老紳士と小さな子供の姿が見えたけど、こちらに背を向けた子はナユタ君にしては幼く小さく見えた。


「ナユタは、今日はお使い。遠くまで行ってるだろうから戻りは遅いはず……」

「……あ、そうなんだ」


華奢な体を舞うように動かして、セツナちゃんはカウンターへ入った。

レースの裾が優雅に。微かにいい香りが漂う。

香りは薔薇。彼女のヘッドドレスにひとつ咲くその白い花は……中庭に咲いていたものなのかもしれない。


「おいしい紅茶を淹れてあげる、花音。今朝とても良い茶葉が入ったから」


セツナちゃんの喋り方は、あまり抑揚がない淡々とした感じで。

でも、ニコリと小さく笑う口元を見れば、彼女が口調の裏に隠している感情を垣間見れる気がした。なんか少し……嬉しそう?


「あ! セツナちゃんもナユタ君と一緒で紅茶を淹れるの得意なんだね?」

「……ん。でも、私の方がナユタより上手」

「ふふっ、そうなんだ。すっごく楽しみ」


こくん、と無言で頷くと、セツナちゃんは紅茶を淹れる準備を始めた。

やっぱり相当手馴れているのだろう。彼女の動きには無駄が無さそうに見える。余計な音も一切立たない。だから、とても静かに時間は過ぎていく。

流れている時間が、実は止まっているんじゃないかと錯覚しそうな程に。