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翌日、目が覚めたのはなんと十時過ぎだった。
「……寝過ぎた……」
ぼんやりした頭で時計の時間を確認した私は、のそのそベッドから這い出る。
カーテンを開けると、朝の爽やかを少し通り過ぎた清々しい太陽の明かりが一気に押し寄せてきて、重い頭も幾分軽くなった模様。
惰性で出てくる欠伸を隠す必要はない。
独り暮らしの部屋を見渡してから、私は冷蔵庫のミネラルウォーターに手を伸ばした。
信じられない、
と口から落ちる独り言。
ベッドの端に座りながら、昨晩、今の私と同じ位置にいた相手を思う。思わず枕を見下ろした。
(……結城さんには、昨日の私がこんな風に見えてたんだ……)
自分の寝姿を想像し、そこに重ねて。
(うわあ……。恥ずかしすぎるんですが。これ!)
病人を見舞うのとはまた違う。
めいいっぱい泣いた後、一人は怖いと漏らした私に、結城さんは眠れるまでココに居てくれた。
駄々をこねる子供のお守りみたいなものだった。
だからだろうか?
戸惑いがちに微笑む彼の瞳が忘れられない……。
『怖い一日は終わりです。だから安心してください、花音さん』
結城さんに対しては逃げ腰ばかりの私が、涙の勢いに任せて彼の腕から離れなかったから……?
静かな口調で、結城さんはそう繰り返していたっけ。
確かに、自分がいつか迎える《死》という存在をあんなに間近に感じた日は今まで無かった。大病も大怪我も縁の無かった自分にとっては、それは、知ってはいるけどずっと遠くの存在だったのだ。
ニュースになる程の大事故。誰もが感じた惨事。そこに渦中の人としていたかもしれない自分。
……そう。考えれば考えるほど、とても怖かったのは事実。
『どこにも行かないで欲しいって言ったら……困りますか?』
『行く気は無いですよ。他ならぬ花音さんの願いならば尚更。困るどころか大歓迎です』
そんな事を言ったら、少し笑った結城さんは、泣き腫らして重くなってきた私の瞼に、触れるか触れないかのキスをして。
『貴女が眠るまで此処に。何もしませんから、どうかご安心を』
琥珀みたいな綺麗な瞳を優しく煌めかせていた――。