「私には出来ません」


と、真っ直ぐ私を見下ろす結城さんは呟くと、怖さを一転苦笑を浮かべ。スッと私から手を引いた。

大きな手が離れたほんの数秒。

視線で思わず追ったそれは、またすぐ私に近づいてきた。近づいて、私をフッと通り過ぎ……。


「ゆ、……き、さん?」

「個人的に色々思うところがありますが」

「え?」

「でも、そういう事は今は関係ありませんね。とにかく考えるべきは。重なった偶然が花音さんを深く悲しませているという事……」


甘い香りが鼻腔をくすぐる。

頬に相手のぬくもり。

ギュッと抱きしめられて。

まさか。

……包まれる安心感がこんなに大きいものとは思わなかった。


「だから貴女は純粋すぎると言ってるんです」

「………」

「こんな……。こんなの」


苦しそうな声が続けて「放って置くなんて無理だ」と耳元で囁く。


「結城さん……!」


胸が締め付けられて苦しかった。


安堵と切なさを同時に味わうと、涙は勝手に溢れてくるものらしい。

それが何故かなんて分からない。

考える事も出来ずに私は、ただ結城さんにしがみ付いて声を押し殺し泣いた……。