流す予定ではなかった涙は、ひとつ零れると、つられて二つ三つと落ちてきた。
「あ」と短く結城さん。
「えっ」と焦って私。
しまった……! 調子乗り過ぎた!
「ち、ちちち違います! これは、……っ!?」
「涙ですね」
ひょいと長身を屈め、結城さんは私の顔を覗き込んでくる。私は慌てて掌でほっぺたを擦って、水分を消した。
「すみません。どうかお気になさらずに……」
そのまま顔をそむけ誤魔化そうとすると、頭の上に乗っていた結城さんの手が……
「ほう?」
私の頭を鷲掴む。「!?」一瞬、そう掴まれたかと思うほど強い圧迫を感じた。
「気にするな? 泣いてる貴女を前に、素知らぬ顔をしろと?」
「や。あの……」
心なしか結城さんの顔が、怖い。
やっぱり手、力入ってない? 頭動かないんですけど!
「残念ながらそれは出来ませんよ、花音さん」
色素の薄い茶色の瞳は、廊下の蛍光灯の明かりを受けて益々薄茶に見えた。
光の加減なのか、その瞳の真ん中にチラリと青い色も見えた気がして、この人はやはり純和風じゃないんだろうな……と思う。
こんな時になんだけど。
もしかして、こういう深芯の色が彼の目力の源なのかもしれないんじゃないかな? とか。