そうと分かっていても心は揺らぐ。悲しげな彼の顔に胸が苦しくなる。
「これでも心配してるのです……私なりに。貴女はとても、過ぎる程、純粋だから」
「え……あの?」
「それがいつか、むなしい結果を招く事にならないか……と」
「……?」
はじめは何を言われているのかよく分からなかった。
私が純粋? それも過ぎるほど?
まさか! これでも結構図太い神経してるし、人並みに意地汚い感情を持つことも、そこそこ際どいネガティブさだって持つこともある。
過剰評価じゃないか? それ。
複雑そうな表情をする結城さんに、私は首を傾げる事位しか出来なかった。
握りしめていたビニール袋。首を傾げた拍子にカサッと音を立てた。
結城さんはそこへ目を向けて「偶然というのは」と続ける。
「偶然というのはですね、それこそ人間にはどうする事も出来ない要素でしょう?」
「……は、ぁ……」
「だからそれを悔やんだりしても、誰かが救われることは無いんです。何かが劇的に変わる訳でも無い」
「………」
「ねぇ、花音さん。馬鹿げていると思いませんか? 無駄な事に心を支配されるなんて」
結城さんの声は、低く冷たかった。
嘲笑を混ぜた声音が……なんだか怖い。
自分へ落とされた言葉が、何を言いたいのかが分かったから余計なのかもしれない。
さっき田所さんと交わした“多くを語らない会話”の時とは全く違う気持ちが、じわじわと胸に広がっていくのを感じた。
「貴女が例えあの場に居たとしても、必ずしも死ぬ運命にあったとは限らない。運悪く命を落とした方々も、あの場に居なかったからといって今日死なずに済んだとも限らない。分かりますか?」
私は、黙って頷いた。
もう今更、結城さんが今日のあの事故を知っている事を疑問に思う必要はなかった。
彼は知ってるんだもん。私のことは色々と。
不思議だけど、そうなのだからしょうがない……。