「花音さん、昼間私が言った事……覚えていますか?」
部屋の前でコンビニ袋を私に手渡すと、結城さんはそう聞いてきた。
「昼間?」見上げると、薄茶の瞳が真っ直ぐこちらに向いていてギクリとさせられる。
「ええと……」
「独りで何かを考えたいという時は、大抵誰かに側にいてもらいたいと思ってる時でもある……という話です」
「ああ……! 結城さん説ですね」
真剣な瞳の圧力が堪えられなくて、思わず目を逸らしながら私は笑っていた。
そういうモノだろうか? と昼間は曖昧に流していた結城さんの言葉も、今は胸にズンと響く重たさがある。
――それはつまり。
実感していた。やっぱりそういう事ってあるのかもしれないと、私自身が今感じてるのだ。
家を出た時も、こうして帰ってくる間も、本当は私……そう思っていたのかもしれない。
「花音さんには、今日は独りになってもらいたくないんですよ。今夜は離さず朝までご一緒したい位です……。出来れば我が家で」
「は? えっ!?」
「うーん……。とはいえ、私もそこまで節操無い男には見られたくないですからね」
そこまでは遠慮しておきます、と結城さんは笑うけど、この人の事だから隙を見せたらどうなるか……。
(本当に……本当に何考えてんだ、この人!?)
つい一歩分距離を取ってしまう私。そんな私に結城さんは「困りましたねぇ」と肩をすくめた。
「私と居るのは、そこまで危険を感じることなんですか?」
「そういう訳じゃないですけど……」
(若干の貞操の危機を感じたりはします……)
――とか言える訳ない。返答には頬がひきつってしまった。
「だから。別に捕って喰おうなんて思ってませんよ、まだ」
「まだ!?」
「ああ……いえ。それはさておきですね」
(いやいやっ! “さておき”されていい問題じゃない気がする……!)
こちらの気も知らず自分の発言をいともあっさり流して。
「花音さん……私は」
結城さんは直後、悲しそうな困り顔を見せた。
まただ。変わり身の速さと、言葉と表情のアンバランス。
この難解さにいつも惑わされるのだ。