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(私、どうしてコンビニなんか行こうと思ったんだっけ……)


行きの道のりはあっという間だったのに、帰りはとても遠く感じる。小さなビニール袋は手元でカサカサ揺れていた。


(そうだよ。冷静になろうと思って)


昼間の出来事でふわふわしてた頭を冷やす為に……。

コンビニに出かけたのは正解だった。

レジで偶然居合わせた男性達の会話のおかげで、私の頭はすっかり冷やされたのだ。

今日は偶然が重なる日。

忘れた訳じゃなかったけど、でも、似たようなものだ。今日一番の偶然を頭の端っこへ追いやっていたんだから。


「私のラッキーは、誰かのアンラッキー……」


ポツリと零してみた言葉は、いい得て妙だった。

これを私が後悔や嘆いてみたところで現実が変わる訳じゃない。そうする事が無意味である事も知ってる。

だけど、やっぱり切なくなってしまうのだ。

ぽっかり空いた、私がいるはずだった時と場所。そこを埋めた誰か。……重なった偶然。

考えると、ちょっと怖くて。

考えると、すこし申し訳ない。

偶然に助けられ密かに喜ぶ自分がいる。そんな自分を不謹慎だと思う自分がいる。

なんかフクザツだ。


(どうしようもない事を、ぐるぐる考えてしまうのは私の悪い癖なんだろうな……)


はあぁー……と長い溜息になってしまった。

そんな感じの帰り道は、ふわふわ浮ついた気持ちも上手く鎮めてくれて。

マンションに着いた頃にはすっかりいつも通り。

のはずだった。


「……あ」


入口の柱にもたれかかる様にして立っている人さえいなければ。


「おかえりなさい」

「結城さん……どうしたんですか……?」

「貴女が出掛けて行くのが見えましてね。こんな時間ですし、少し心配だったので……ここで帰りを」


ニコリと微笑み。

一歩こちらに歩み寄る結城さんに、胸が勝手にキュンとなる。

――これじゃあ、鎮まる予定だったものも鎮まらない。