『まあさ、結城さんがどんな人かはこれから仲良くなれば解る事じゃん? ゆっくり行きなよ、ゆっくり。折角の恋のチャンスだもんね』
「こ、恋……。恋かあ」
『そうだよ、恋! 勉強とバイトばっかじゃつまらないよ? 大学生活だって人生だって、まだまだこれからなんだからね!』
朋絵はそう綺麗に話をまとめると、満足げに電話を切った。今後結城さんとの仲が進展したら必ず教えてよ、としっかり言い残してから。
(仲が進展ねぇ……。実はもうキスしちゃった、って言ったら、朋絵ひっくり返るかもしれない)
あれで案外、純情で古風な所があるのだ、朋絵は。ついでにロマンチスト。隠している事実を教えたら、ビックリするどころか怒り出すかもしれない……。
そしたらどうしよう。私だって今の自分の状況とか気持ちとかよく分かってないのに。
二人でパニックになって、まとまるものもまとまらなくなりそう。恋愛初級者は、何も私に限った事じゃないのだ。
(やっぱりキチンと説明出来る状態にしない限り、話しちゃダメだよね。例えば)
結城さんと付き合う事になりました、とか?
ぱっと浮かんだ自分の考え。
一個浮かぶと、あとはもう雪崩のように頭の中へ入ってくる回想。
朝のこと。駅でのこと。歩いた道のりでのこと。カフェでのこと。
――カフェといえば。
あそこは不思議な雰囲気を持つお店だった。綺麗な中庭のあるすごく静かな場所で。
小さな店長ナユタ君と、常連客っぽかった老紳士藤本さん。結城さんとは随分仲が良いみたいだった。
あれ。そういえば私……あの時、
「大事な人と思ってる」みたいな事結城さんに言われてなかった……?
聞いた言葉を思い出したら、それに重なるように彼と交わしたキスの記憶がよみがえる。
頬より先に、唇が熱を持った気がした。
「わああ……っ、またなに思い出してんの私っ!」
自分以外いない部屋。私は独りだというのに大慌てで手をぶんぶん振り、脳内映像を打ち消した。