『だってさ、駅で女の人と会ってたんでしょ? 仕事終わったばっかだって言ったんでしょ? だったらその女の人、お客さんかもしれないじゃん』

「でも、あれがお客さんで結城さんがホストだとしたら! あんな……あんな雰囲気出すかな……」


偶然見た二人の姿を思い出すと、何か胸のあたりがモヤモヤした。チラッとしか見えなかったけど、あの時の光景は切り取った絵の様にくっきり思い出せる。



そう。小柄な女性だった。

薄いピンクの生地に赤い水玉のワンピース。ストレートのロング、色白の綺麗な横顔。……そして、悲しそうな顔。

結城さんは彼女に語る。やがて彼女が小さく頷くと、結城さんも頷いて。笑った。

優しい微笑み。

彼女のさらさらとしたストレート髪を撫でる手。


「ちがうよ……。多分」


私には、あれが“ホストとお客のとある日”には到底見えなかった。

だけどそれを、見ていない朋絵に上手く伝えられない。なんとなく「違うのだ」と言う事しか出来なかった。


『やだなぁ、花音』


朋絵は苦笑した。表情は見えないけど声の調子で分かる。彼女の眉尻をうんと下げた困り顔が浮かんだ。


『私、別に花音を泣かせたくて言ってるんじゃないからね?』

「え?……何、急に」

『だって、花音ってば“ショックだわ感”丸出しなんだもん』

「はっ!? 違うよ、そんなこと思ってないって!」


朋絵の発言はいつも突拍子もない。だけど、中々に的を射ている事もある。

“結城さんがホスト”説は的外れでも、私が少し心乱れた事は当てにきた。

朋絵の言葉に自分の気持ちを丸裸にされた気分だ。

それが恥ずかしくて、私は必死さを隠しながら答える。

泣きそう? 私が?

いや、そんな事は無い!

そりゃあ、結城さんと女性のあのシーンには、ちょっとはショックを感じたけど……。


『うんうん。そうだよね。ごめんね、花音。話に聞く結城さんが花音のいう通りの人なら、いくらなんでもホストな訳ないよね!』

「う、うん……!」

『所構わず女性に迫る、一見紳士……その実(じつ)野獣男子! な訳ないさッ』

「うっ……うーん……」


ああ……なんだろう。完全に否定出来ないこの感じは……。

ははは、と私は複雑な胸の内を乾いた笑いで誤魔化した。