『結城さんってさぁ……ホストなんじゃない?』
携帯向こう側の朋絵の声に、私はチョコレートへと伸ばしかけた手を止めた。
それまでだらけて座っていた姿勢が、衝撃的な朋絵の発言によって意味も無く正された事は言うまでもない。
ソファーベッドの上で、私は気付いたら正座して電話にかじりつく。
そして今度は、意味も無く小声になりながら……、
「は? 何言ってんの朋絵!?」
『何って、花音が言い出したんじゃん。結城さんの職業ってなんだろーって』
「いや……そうだけどさ……。でも、いくらなんでもそれは無いでしょ、それは」
ビジネススーツを常日頃のスタイルにしてるホストっているもんなの? それに……。
『出勤着かもしれないっ!』
「……。真面目に考えようよ。朝から仕事に赴くホストがどこにいるの」
うーん、と唸る朋絵は、店で仕事が残ってたんだとかお客さんとデートだったのかもしれないとか……適当な事を言って続けた。こうなると、どうしても結城さんをホストにしたいらしい。
――朋絵に結城さんの事を打ち明けたのは間違いだったんだろうか……?
昼間私が先に帰ったので続きの話が出来なかったと、朋絵はこうして夜電話をかけてきた。
明らかに興味津々。何かを期待して電話してきた朋絵の好奇心を、上手くあしらえる術なんて私にはない。
だから、若干迷ったものの、このままずっと隠し通せる事でもないし別にそうしたいと思った訳でもなかった私は、彼女に結城さんの事をはじめから説明することにしたのだ。
もちろん、キスの件とかまだ隠しておきたい部分はしっかり端折ってだけど……。
隣に越してきた結城さんがとにかく素敵なんだけど不思議な人だっていうのと、今日のバイト帰りに偶然会ってお茶した事。とりあえずはその辺りをザックリ話した感じだ。