クリームの真白に、彼の舌の真赤。
視覚に促されて、中途半端に残ってるクリームの甘さの記憶が私の舌によみがえり乗る。
それはまるで、同時に味わってるみたいな錯覚。
瞬間、自分の脳内に投影されたイメージ画像は、“可能性”を肯定するには十分なものだった。
『顔に火がつく』とはこうなった時使うんだ、きっと。一秒で私の顔の体温、何度上昇した?
(ちょっ、こんな事思うなんて……わたし!)
おかしいでしょ! バカじゃないの!?
「まあ、甘さと言っても色々ありますけど……。でも花音さん。どうやら私達、そういう好みまで同じようですね」
「え……っん!?」
バカな想像は現実になる。
顎をガッと掴まれたと思ったら、重なる唇。直後には結城さんの舌が緩く開いてた口唇を遠慮なく割って入ってきて、私のに絡んでくる。
激しくて性急。そして、融けそうに熱く。
甘ったるい。クリームなんかより全然。
息継ぎが上手く出来なくなって頭がクラクラしてきた分、キスの甘さが全身を毒していく様だった。
沈む? 溺れる?
分からなくなる自分の状況。
ただ……。
混乱してるくせに、困惑してるくせに、この甘さが心地好いと感じてる私。
バカな想像は期待だったんだろうか?
だとしたらみっともないし恥ずかしい。いつから自分はこんな風になったんだろう。
キチンと整理もついてない関係の中で、キスの深度ばかり深め合ってくなんて……どうかしてる……。
中庭の木々が風に揺れて葉擦れを起こす。
さわさわ、さわさわ。
それは誰かの囁きか、クスクス笑う小さな声みたいだった。
薔薇の香りも益々強くなった気がする。
ふっと一瞬だけ結城さんの唇が離れた時、その香りが呼吸に紛れ一気に押し寄せてきて……。
その後は、キスと薔薇の殺人的な甘さに負かされてしまいよく覚えていない。
結局、また何もかも、うやむやに終わってしまったのだ――。