「それは?」

「やっぱりなんでもないです」


これ以上口を開いていると、余計な事をどんどん言ってしまい、それこそ相手の思うツボになるだろう。私は、半開きの口の中にケーキを押し込んだ。

あ。美味しい。

程よいクリームの甘さ加減と、スポンジのしっとり具合。このお店のメニューは私の好みにがっちり合っている。

幸せスイーツに、気持ちと頬が緩んだ。


「良いんですよ、花音さん。私には本当の事を言ってくれても。だってこれからは長いお付き合いになるんですし」

「ほ?」


笑顔の結城さんに、首を傾げた私。変な返答になったのは、ケーキを頬張ってたから。

頑張って咀嚼しなくても、上品なケーキは口の中で溶けていく。ごくん、と美味しさを飲み込んだ私に、結城さんはウットリした表情を見せながら続けた。


「何でも言い合える仲、というのが理想じゃないですか。隠されていても貴女の事は分かりますが、やはり花音さん自身の口から聞きたいとも思うんですよね。私としては」

「……ん?」

「そう。憂いも羞恥も。その口から何でも、ね」


何言い始めるんだ? この人? 大丈夫か?

夢みる詩人みたいな口調になってますが。


私の事を「表情がコロコロ変わる」と言った事がある結城さんだけど、彼だって負けてないと思う。駅で見かけた時から何度となく変わる結城さんの雰囲気に、私はただただ驚いていた。

すると、恍惚と薔薇を見ていた瞳が不意にこちらに向く。

恍惚残る茶色の瞳は艶美。その艶やかさにドキッとしてしまった。


「だから、お聞きします」


少し腰を浮かせて、結城さんはテーブル越しに私に近づく。

小さなテーブル向かい合わせの状態では、あっという間に鼻先触れそうな距離になった。「ちょっと……」私は僅かに重心を後ろへ。


「近いです、近い」

「花音さん。甘いモノ、お好きでしょう?」

「へっ!?」


超間近で、この質問。なんでそうなるのかと、驚かない方が可笑しいというものだ。

ギョッとする私に、結城さんはニッコリと人差し指でショートケーキを指さした。