結城さんの反撃は続く。
彼のペースにはならないと思っていたのに、どんどん流されていってるような感じがするのは気のせいだろうか?
「ただの隣人ですか? 自宅で二人きりで食事をしたりキスをしたり。仕事終わりにはこうして一緒にカフェでお茶もする……“ただの隣人”?」
「……うっ」
(これは……っ。まずい流れに!)
そこまで踏み込んでしまっていたら、それはもう“ただの隣人”の関係とは言えない。
私と結城さんの間に起こった事を言葉で並べられると、「仲良しだから」という弁論も怪しく意味深に聞こえてしまう。
完全にこちらの言い分に対して先手を打たれた。だけど、気が付いた時にはもう遅い。
この人は、他人を自分のペースに巻き込む天才なんだ! と改めて思う。
「……」
「ね。恋人みたいですよね?」
「うぅ……っ」
言葉を呑み込んだ私に、結城さんは目をスッと細めながら確認してきた。確認というより、もう半ば脅迫の様にも思えるけど……。
結城さんってこういう時、いつもの紳士感が消える。代わりに有無を言わさない強引さが見える。
まさか職業はやり手の営業マンか!? なんて、私はピンチの時に呑気に考えてしまった。
はっ!! いかんいかん!
「……そ、その手には乗りませんっ。“だからもう恋人ってことでいいでしょう”って完結させる気ですよね?」
「良いじゃないですか、完結。私は朝からずっとそう言ってますが……? 花音さんが先伸ばしにしてるんですよ?」
「だから! それは!」
続けようとして、はたと止まる。
あれ? 私いま何言おうとした?
甘い香りが風に舞って、鼻腔をくすぐっていく。ここの薔薇は咲き過ぎだ。普段ほんのり香るモノしか知らない私には、圧倒される程の濃さが少々キツい。
(ちゃんと告白されてなきゃ返事も出来ないって……言おうとしてた。それって何か)
告白さえしてくれればOKなのに……と言おうとしてるみたいじゃない。
流されるつもりは毛頭ないのに、なんて事だ! 私ってば!