苺にケーキの生クリームを乗せる結城さんを眺めながら、私はまた紅茶をすすった。
スーツ男子が綺麗な所作でショートケーキの苺を食する姿なんて、あまり見れるもんじゃない。
私の周りにはスーツで働く男の人……いないもんなぁ。
バイト先は堅苦しい服で働く所じゃないし、大学ではせいぜい教授や事務員さんを見かける位。身近にビジネスマンの知り合いもない。
だからなのかな。見慣れないものにドキドキするのは。
朋絵が「スーツ男子、メガネ男子ってカッコイイ!」と騒ぐ気持ちがちょっとだけ解った。
「はい、どうぞ。差し上げます」
「はい?」
結城さんに笑われて、私はハッと我に返る。
我に返った時には、目の前に苺。結城さんがフォークに刺さった苺を私に差し出していた。
あ。もしかして、じっと見ていたのは苺欲しさだと勘違いされた?
……いやいやいや、と首を振って苦笑い。
「別に狙ってませんから、イチゴ。どうぞ食べちゃってくださいって」
「いえ。初めからこうするつもりだったんですよ。私、苺の酸味は苦手なので」
苺欲しさで見ていたと思われるのは恥ずかしい。だからと言って、ただ結城さんを見つめていたと思われるのはもっと恥ずかしい。
……でも。それ以上に。
「はい、あーん」っていう今のこのシチュエーションは、もうとんでもなく恥ずかしいのですがっ!?
(結城さんてば、苺苦手なのにショートケーキ頼んだの?)
何故と、理由を考える余裕はなかった。
目の前で、私の口に入ることを待っている苺と結城さんの満面の笑みが、視界でチカチカしてるのだ。思考力なんて鈍りまくりだ。
(どうしよう。何コレ!? こういう時って、大人しく食べてみるもんなの?)
哀しい事に、恋愛経験が少ない私には対処法が分からない。
断る言葉を出そうか、それとも素直に受け取ろうか。迷う口は情けなくモゴモゴしてしまう。
そんな私を見透かすのは彼。
「食べて。花音さん」
笑みに細んだ結城さんの瞳。
それが決定打だった。