とまあ、ともかく。

ショートケーキが残念な姿になっても、味が変わる訳ではないので。

せっかく淹れてもらった温かい紅茶が冷める前に、頂くことにする。

とてもいい匂い。……アールグレイ?

好きとはいえ、私はいつもティーバッグに頼りきりなので、こんなに香り高く淹れられた紅茶に出会うのは久しぶりだった。

本格的、という単語が頭に浮かぶ。これは、あのナユタ君が淹れたものなのだろうか……。

多分そうだよね。

見目小学生の彼がカフェの店長だというのなら、ここまで完璧にお茶を淹れる特技が認められた結果と考えるのが普通だ。


(あの子がこれを。……すごいなぁ)


私は感心しながら紅茶を味わった。


「どうですか? 花音さん」

「ええ。美味しいですねー。ちょっと感動してます」

「でしょう? きっと気に入っていただけると思ってましたよ」


結城さんは嬉しそうに目を細める。彼も一口紅茶を飲むと、「スイーツも勿論」と苺にフォークを入れた。


「貴女好みのはず。……ショートケーキはその代表格では?」

「えっ!? なんでそこまで知って……」


ショートケーキはケーキの中で一番好き。私の定番スイーツだ。

結城さんのリサーチ力……恐るべし!

頬が引き攣ってしまう。本当にこの人、どこまで色々調べてるんだっ!?

私の反応に結城さんはプッと吹き出した。


「他意はありません。ほら、女性って大抵ショートケーキ好きじゃないですか。だから言ってみただけです」


ね? と笑いかけられ、私は「ああ、なんだ。そういう事」とホッとする。推測しただけね。私が考え過ぎてた……ちょっと自意識過剰だったみたい。


「そんなに警戒しないで下さいよ。心配しなくとも、私はストーカーじゃありませんから」

「あ……いや、違いますごめんなさい。私そんな風に思ってる訳じゃ……」

「本当ですか? 嗚呼、それは良かった」


私の顔を見た結城さんの口元がゆるりと和らぐ。すると、周りの空気も私の気持ちも一緒に和らいだ感じがした。

ほわん、と浮かれる私のキモチ。

なんだかんだ言っても、結城さんの微笑みは魅力的。彼がそうするだけで景色までもが違って見えてしまう。

……白薔薇の色がパステルピンクに見える気が!?

――まさかね。

ま、それは冗談としても。

全てを魅了し変化させようなんて、そうそう誰もが持てる魅力じゃない。

やっぱり結城さんは、不思議な人なのだ……。