「似合ってるね、ナユタ君。さすが店長さん」
「へへっ。頑張ってます! ボクもセツナも、マスターの為に在るべき者ですからっ」
「マスター?」
それって、この店にはオーナーなる人がいるって事なのかな?
……おかしい話ではないかも。小さな店長さんに店を任せて、他に仕事を抱えている。そういう人がいたとしても。
こんな不思議な空間を作り上げる人なのだ。とことん変わっている人なら考えられる余地はある。
「おや。それならサボっていると怒られるんじゃないですか? 怒ると大変怖い人、と聞いた事がありますけど……」
「うわあ! ボク真面目に仕事してますからねっ!」
結城さんの声にナユタ君の顔色が変わった。慌ててティーセットをテーブルに置き、ペコリとお辞儀。そのまま足早に店内へ戻りかけたものの、今度は「しまった!」といわんばかりに立ち止まり振り向いた。
「それではごゆっくりです! お二人ともっ」
この慌てよう。よっぽどオーナーは厳しい人らしい。
「慌ただしい店長ですねぇ。苺が落ちてますよ……」
「ん?」
そう言われテーブルにあるショートケーキを見た。急いで置かれたせいなのか、本来上にのっているはずの苺がころんとお皿に転がっている。これは……勢い余って落ちた?
「これでは、オーナーに叱られる前にお客から怒られると思うのですが」
そう呟く結城さんに、私はおかしくなって笑ってしまった。
二つあるショートケーキは、見事に両方とも苺が転がり落ちていて間の抜けた状態だったのだけど。
それを呆れ半分残念さ半分で見る美麗顔も、思いのほかシュールな感じ全開だったのだ。