「……そうですね」
会話はそこで終わった。藤本さんは再び本の文字を追い始め、結城さんはそんな藤本さんにちょっとだけ微笑んで。それでおしまい。
二人の普段はそんなものなのだろう。プッツリと途切れた会話をお互い気にしてない様だった。
私たちを全く見なくなった藤本さん。その前を、結城さんも何事も無かった様に通り過ぎる。
いいのだろうか? と、逆にこちらの方が気を遣ってしまう位だ……。
なので、もう一度藤本さんに軽く会釈をしてから、私は店内の奥へ進む結城さんを追いかけた。
「え。すごい! 中庭ですか?」
「花音さん好みでしょう? イメージは、イギリスの薔薇庭園だそうです」
「小さいお店だと思ってたのに。奥行きはこんな広かったんだ! それに中庭まであるなんて……」
本当に、入口から店内の様子を見てもココにこんな広い中庭があるとは想像出来なかった。この店舗はきっと特殊な造形をしているのだろう。
知ってる人じゃなきゃ分からない特別な空間。
結城さんが案内してくれた薔薇がいっぱい咲く中庭は、まるで秘密の花園みたいだ。
「常連客しか知らない、みたいな?」
結城さんに聞けば、笑みで返事が返ってきた。
庭から見上げた空から降り注ぐ太陽の光。時々風が吹くと、薔薇の甘い香りが辺りを包む。
一瞬ここが中庭である事を忘れそうになった。大きな木があったりちょっとした噴水があったり。多分そんなに広い空間ではないだろうと思うけど、……庭作りが上手なのかな? すごく広く感じる。
「お待たせしましたぁ。さあさあ、花音さん! 当店自慢のスイーツと紅茶をどうぞー!」
ワゴンを押して現れたナユタ君は、もうメイド姿じゃなかった。リボンタイのベストスーツは小さいながらもちゃんと紳士風。でもやっぱり彼の可愛いさが前面に押し出されていて、なんだかとても微笑ましく見える姿だ。