すると、来店客を知った店員が奥から出てくる気配。チリン、チリンッ、と小さな鈴の音が弾んで近づいてくる。
――ん? 鈴?
「おかえりなさい! ご主人さまっ」
鈴の音と声と身体を弾ませて。
小さな店員が駆け寄ってきた。それに思わず「えっ!?」と声が出てしまう。
だって、どこからどう見ても小学生位の少女が、メイド姿で現れたのだ。
しかも「おかえりなさいご主人様」って……。
驚くな、という方が無理っ!
「ナユタ。いつから此処はそういう趣旨の店になったのですか?」
私の驚愕を受け、結城さんが冷たい視線でメイドさんに言葉を投げつける。
「彼女がいらぬ誤解をしているでしょう……」
低い声が静かに圧力を見せ、その迫力に女の子も私もビクッと身体を固めてしまった。
怖い。怒りのオーラがくっきり見えそうな気がして、怖い。
いや、私が怯える必要は無いはずなんだけど……。ついだ、つい。
「す、すすすすいませんっ。セツナが、『きっとお二人が驚くからやろう』って言ったものですからーっ」
ショートカットの彼女は、綺麗なグリーンアイをうるうるさせて言った。だけど良く見ると、グリーンアイなのは右目だけで、左目は結城さんの様に薄茶の琥珀色。オッドアイだ。
真ん丸の大きな瞳が印象的でとても可愛い。
「……全く。セツナの悪戯好きには困ったものですねぇ。ナユタ、あなたも言われたままにやらずともいいでしょう。少しは恥を知りなさい?」
手厳しい言葉だけど、言葉の反面結城さんの顔は苦笑気味だった。
それに“ナユタちゃん”が、ホッとした表情を見せる。結城さんはお客さんなのに、店員をやんわり諭している姿はまるで店長のようで。もしくはお父さん……?
そう思いながら二人を見ていたら、結城さんは彼女を紹介してくれた。
「花音さん。彼はナユタ。この店の店長です」
「……店長?……え!? あ、いや……“彼”って!?」
(ウソ! 男の子なの? この子!)
衝撃にひっくり返りそうになる私。なんとかこらえた。
「おや、これは……。花音さんを驚かせる作戦は思った以上の成果なのでは? ナユタ」
「はい! この格好した甲斐がありましたー」
ゴシック調のメイドドレスで、ナユタ君はくるりとその場でターン。レースの裾がふわりと揺れる。